第44週
チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石の表紙

ノンフィクション・人生論

チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石

武田尚子

中央公論新社(中公新書)

この一冊で何が変わるか

身近なモノの見方が変わる。一粒のチョコレートの背後に、貿易・産業・労働の歴史が流れていることに気づき、「あたりまえにある商品」の来歴を想像する知的な楽しみが身につく。

チョコレートのとろける甘さには、国ごとに異なる近代化の過程が溶け込んでいる。

バレンタインに、ひと息つきたい午後に、私たちが何気なく口にするチョコレート。その一粒の甘さの向こうに、実は数百年の世界史が溶け込んでいる——そう教えてくれる、驚くほど面白い新書だ。

物語は中米から始まる。カカオはもともと、神々の食べ物とされた苦い飲み物だった。貨幣として使われ、薬にもなった。それが大航海時代にヨーロッパへ渡り、砂糖と出会って「甘い飲み物ココア」に姿を変える。やがて19世紀、固形チョコレートが発明され、爆発的に世界へ広がっていく。

この本の読みどころは、チョコレートが一人で広まったのではない、という視点だ。その裏には、カカオ農園を支えた奴隷貿易があり、大西洋をまたぐ三角貿易があり、産業革命の工場と労働があった。甘く優しい味の背後に、近代という時代の光と影がびっしり詰まっている。イギリスの小さな食料品店ロウントリー家が、キットカットを生み出し世界企業になっていく過程も、まるで一編のドラマのようだ。

身近な食べものを一つ、歴史の軸でじっくり追いかける。たったそれだけで、世界の成り立ちがこんなにも立体的に見えてくる。知的好奇心が心地よく満たされる一冊だ。読み終えたあとのチョコレートは、きっといつもより深い味がする。

週に一冊。それだけでいい。今週は、一粒のチョコから世界史を旅する一冊を。

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