第41週
琥珀の夢 小説 鳥井信治郎の表紙

小説・文学

琥珀の夢 小説 鳥井信治郎

伊集院静

集英社(集英社文庫)

この一冊で何が変わるか

一杯の酒の向こうに、それを生み出した人間の途方もない挑戦が見えるようになる。「できない」と言われることに挑む勇気と、結果が出るまで何年も信じ続ける胆力の尊さが、静かに胸に残る。

やってみなはれ。やってみなわからしまへんで。

私たちが当たり前に飲んでいる、風呂上がりのウイスキー。その一杯が日本に根づくまでに、どれほどの情熱と無謀があったか——この小説は、それを教えてくれる。主人公は、サントリー創業者・鳥井信治郎。「やってみなはれ」の精神で、日本にウイスキーという文化を打ち立てた男である。

物語は明治の大阪船場から始まる。両替商の次男に生まれた信治郎は、13歳で薬種問屋に丁稚奉公へ。そこで洋酒の美しい琥珀色に魅せられる。20歳で独立し、まずは葡萄酒に挑む。赤玉ポートワインを大ヒットさせ、次に狙うのは——当時の日本人が見向きもしなかった、国産ウイスキーだ。

「日本人の舌に合うウイスキーなど、できるわけがない」。周囲は猛反対した。ウイスキーは仕込んでから世に出るまで、何年も寝かせなければならない。莫大な借金、先の見えない歳月。それでも信治郎は、竹鶴政孝を招き、山崎に蒸溜所を建てる。失敗しても、失敗しても、諦めない。その姿は、一つのものづくりに人生を賭けるとはどういうことかを、静かに、そして熱く描き出す。

伊集院静の筆は抑制が効いていて、押しつけがましくない。だからこそ、信治郎の情熱がまっすぐ胸に届く。何かを一から生み出そうとするすべての人へ。読み終えたあとのウイスキーは、きっと少し違う味がする。

週に一冊。それだけでいい。今週は、一杯の琥珀に人生を賭けた男の物語を。

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