第38週
目の見えない人は世界をどう見ているのかの表紙

ノンフィクション・人生論

目の見えない人は世界をどう見ているのか

伊藤亜紗

光文社(光文社新書)

この一冊で何が変わるか

「見えること」を前提にしていた自分の世界の捉え方が揺らぐ。障害を欠落ではなく別の豊かさとして捉え直し、他者の感じている世界を想像する力が広がる。

見えない人にとって、世界は死角のない、開かれた空間なのかもしれない。

私たちが外界から得る情報の、8割から9割は視覚だという。それほどまでに、私たちは「見る」ことに頼って生きている。では、その視覚を取り除いたら、世界はどう見えるのか。この本は、目の見えない人の世界の捉え方に分け入っていく、静かにスリリングな一冊だ。

著者の伊藤亜紗さんは、美学と現代アートの研究者。同情でも福祉でもなく、純粋な知的好奇心で、見えない人たちに話を聞く。すると、驚くような世界が開けてくる。たとえば、ある全盲の人は、坂道の途中で「大きな山」を感じるという。見える人は目の前の風景に気を取られるが、見えない人は、空間そのものを三次元でまるごと捉えている。見えないことは、欠けていることではない。むしろ、別の豊かさが立ち上がっている。

読み進めると、当たり前だと思っていた自分の感覚が、ぐらりと揺れる。私たちは、見えているからこそ、たくさんのものを見落としているのかもしれない。視覚という「特権」に縛られて、世界を平面的にしか捉えていないのかもしれない。この本は、障害についての本であると同時に、「見る」とは何か、「知る」とは何かを問い直す本だ。

そして何より、文章がやわらかくて、温かい。最終章では、見えない人にとってのユーモアが「生き抜くための武器」として描かれる。重いテーマのはずなのに、読後感は軽やかで、世界の解像度がひとつ上がったような気持ちになる。

週に一冊。それだけでいい。今週は、世界の見え方が静かに変わる一冊を。

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