小説・文学
モモ
岩波書店(岩波少年文庫)
この一冊で何が変わるか
「時短」や「効率化」を無条件に良いものとして追いかける癖に、一度ブレーキがかかる。節約した時間で本当は何をしたいのかを問い直し、忙しさそのものを疑えるようになる。
時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人間の生きる場所は、心のなかなのです。
町はずれの円形劇場のあとに、モモという女の子が住みついている。歳もわからない、みなしごの女の子。取り柄はひとつだけ、人の話を聞くのがうまいことだ。モモに話を聞いてもらうと、悩んでいた人はなぜか答えが見つかり、けんかしていた二人は仲直りする。ただ座って、耳を傾けているだけなのに。
ある日、町に「灰色の男たち」がやってくる。時間貯蓄銀行の外交員を名乗る彼らは、大人たちにこう囁く。無駄話をやめろ。近道をしろ。あなたの時間を節約して、預けなさい、と。人々は言われるままに時間を切り詰めていく。仕事は速くなり、街はきれいになり、そして誰もが、前より不機嫌になっていく。
この物語が書かれたのは1973年だ。半世紀前のドイツの児童文学が、なぜいま、これほど胸に刺さるのか。スマホを片手に「時短」を追いかけ、効率を上げるほど時間に追われていく——灰色の男たちに時間を差し出しているのは、たぶん私たちのほうだ。
児童文学の顔をしているが、これは働く大人のための本だ。何のために時間を節約しているのか。節約したその先で、自分はいったい何をしたいのか。モモの静かな問いは、読み終えたあとも長く残る。
週に一冊。それだけでいい。今週は、奪われた時間を取り返す一冊を。