働き方・生き方
ナリワイをつくる
筑摩書房(ちくま文庫)
この一冊で何が変わるか
働き方の前提が「我慢して稼ぐ」から「遊びながら小さく稼ぐ」へ反転する。会社に時間と健康を明け渡す以外の選択肢が、現実味を持って見えてくる。
個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を「ナリワイ」(生業)と呼ぶ。
「会社にいると、自分の時間がどんどん減っていく」。そんな感覚を一度でも抱いたことがあるなら、この本はよく効く。
「ナリワイ」とは、著者・伊藤洋志さんの造語だ。個人ではじめられて、自分の時間と健康をお金に換えるのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事。年に30万円ほどの小さな仕事を、いくつも束ねて暮らしを立てる——それがこの本の提案である。
大きく稼いで大きく使う、という生き方とは正反対をいく。むしろ「そんなにお金、いるんだっけ?」と、支出のほうから静かに点検していく。遊びの延長で誰かの役に立つことを見つけ、小さな商いにしていく。DIY、複業、お裾分け。競争からそっと降りる、"非バトルタイプ"のための作戦の本だ。
かつて日本には3万5千種もの職業があったという。今はずっと少ない。便利になった分だけ、私たちは「自分でやれること」を手放してきたのかもしれない。この本が心地よいのは、その手放したものを少しずつ取り戻していく感覚があるからだ。床を張る。パンを焼く。小さなツアーを企画する。仕事と生活の境目が、ゆるやかに溶けていく。
『夜と霧』が「なぜ生きるか」を、『DIE WITH ZERO』が「お金をどう使い切るか」を問うた本だとすれば、『ナリワイをつくる』が問うのは「そもそも、どう働き、どう稼ぐのか」。働き方に少し疲れた人ほど、ページをめくる手が軽くなっていくはずだ。
週に一冊。今週は、肩の力を抜いて読める一冊を。