第34週
料理と利他の表紙

エッセイ・人生論

料理と利他

土井善晴・中島岳志

ミシマ社

この一冊で何が変わるか

「ちゃんとやらねば」と力んでいた家事や日常に、余白が生まれる。頑張ることだけが誠実さではないと気づき、自然に沿って、肩の力を抜いて暮らす視点が手に入る。

料理は、自然と人とのあいだにある。作る人が半分、自然が半分。だから、頑張りすぎなくていい。

料理研究家と、政治学者。一見なんの関係もない二人が、料理について語り合う。それだけの本だ。けれど読み終えると、料理の話をしていたはずなのに、いつのまにか「どう生きるか」を教わっていたことに気づく。

土井善晴さんは、『一汁一菜でよいという提案』で知られる人だ。ご飯と味噌汁、それに漬物。それで十分だと言う。手をかけることが愛情だと思い込んで、私たちは料理に、そして暮らしに、力を入れすぎているのかもしれない。土井さんの言葉は、その肩の荷をそっと下ろしてくれる。

対する中島岳志さんは「利他」を研究する学者だ。人のために、と気負った瞬間、それはもう利他ではなくなる。本当の利他は、自然に、こぼれるように起きる。二人の話は、家庭料理から民藝へ、環境へ、自然に沿って生きることへと、澄んだ水のように流れていく。

コロナ下のステイホーム期間、多くの人が台所に立った。あの時間に、私たちは何を感じていたのか。この本は、日常のいちばん地味な営みの中に、深い思想が宿っていることを教えてくれる。難しい顔をした哲学書ではない。美味しいものを食べたあとのように、心が静かに満たされる。

週に一冊。それだけでいい。今週は、台所から人生を考える一冊を。

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